知人で専門学校の講師をしている人がいます。知性と教養、そして言葉に対する熱いスピリットを持った人です。その彼から聞いたお話。
ある日、いつものように彼が授業の最中に熱弁をふるっていたときのこと。天気が急変し、窓の外がざあざあ降りの雨になりました。生徒たちはざわつきます。
「さっきまで晴れてたのに!」
「やだー、最悪!!」
それを聞いた彼は、激怒しました。
「最悪とはなんだ。雨が降ったくらいで『最も悪い』と言えるのか。そんなはずはない。どうしても言葉に表したいなら『悪』と言いなさい、『悪』と!!」
私はこれを聞いて、腹を抱えて笑ったものでした。生徒たちが「やだー、悪!!」と言っている姿を想像すると、もうおもしろくておもしろくて(笑)。でも、思い出すたびにその通りだなと深く納得します。私たちはよく「最悪だー!」などと簡単に口にしますが、最も悪いことなどそうそうありません。おそらく「最も」というからには人生で一度のはず。それ以外は全部「悪」にすぎないのです。人生で不運だと思うことのほぼすべては、悪にしかすぎない。最悪じゃない。
以来、「なんとなくツイてないなあ」と思うたびにこのエピソードを思い出すようになりました。現状を正しく認識することの大切さを、改めて教えてもらったように思います。
最も悪いなんてことはない。
これはただの悪なのだ。
だから、私はまだまだ大丈夫だ。
って、ね。